康平は駐車場へ入り、「BarBarくりはら」の中に誰もいない事を確認すると、マジックミラーを見ながらシャドーボクシングを始めた。

 左ジャブから始まり、ダッキングや数日前に教わった左のダブルパンチ等、習った技を確認していく。

 そこは住宅街で元々静かな場所ではあったが、朝六時前のこの時間は特に静かで、小鳥の鳴く声だけが聞こえてくる。



 タ、タ、タ、タ……。

 誰かの走る音が康平に聞こえた。

 恥ずかしさもあって、人前でシャドーボクシングをしたくない康平は、マジックミラーの前で行っている行為を屈伸運動に切り替える。

 中年の女性が、Tシャツと短パン姿で「BarBarくりはら」の前の道路を走り抜けていく。どうやらジョギングのようである。

 しばらく康平は、シャドーボクシングを続けていた。


 カッ……、カッ……。

 今度は杖を突くような音が康平に聞こえた。彼は再び屈伸運動を始めた。