「白鳥、接近したら低い姿勢にならないと打たれるぞ」

 飯島はアドバイスをするが、白鳥は高い姿勢のままで右ストレートを放つ。

 大崎は、左へダッキングして左ボディーブローを打とうとした。白鳥は前に出なからパンチを打った為、先に体がぶつかってクリンチになった。

 クリンチとは、お互いの体が密着し過ぎてパンチが打てない状態になる事である。抱き合うような形になる時が多い。


「ブレイク。ちょっと待て!」

 梅田の一言で両者が離れ、スパーリングは一時中断した。


「大崎、接近戦はお前の土俵なんだから、簡単にクリンチするんじゃねぇぞ」

 梅田の声に反応して大崎がゆっくり頷いた。


「白鳥はボディーを貰い過ぎだぞ。接近したら構えを低くして、打たれる面を小さくするんだ。近距離だとパンチを避けきれないんだからな」

 腰を落として構えるポーズをしながら話す飯島へ、白鳥は小さく二度頷く。