「ちょっ、ちょっと待ってって!」

私の手を引きながら廊下を走る押上…都樹を止める。

「あ?」
「はぁ、はぁ…いきなり彼女役をやれとか言われても、全然意味が分からないし、はぁ…。」

私の息はかなり荒れていた。

「一回落ち着けっての。いちいち息の音聞くの面倒だし。」
「お、落ち着かせないのは都樹の方でしょ…。」
「で? 何の用だ?」
「だーかーら、いきなり彼女役をやれとか言われても、全然意味が分からないし…。せめて理由だけでも教えてくれないと、どうにも私、協力できないから…。」
「妖怪…。」

わざと大きな声で都樹が言う。

「な、何やってんの? 聞こえちゃうじゃん…。」
「協力してくれるまで、俺は何回でも言うから。」
「あぁもうっ、分かった! 彼女役になればいいんでしょ、彼女役になれば!」
「それでよし。」
「はぁ…何なのよ、全く…。」

いきなり鏡の中に行ったと思ったら、何もかもが反対の世界で、いきなり俺様野郎に彼女役を頼まれて…。

こんなの、ついて行けない。

でも、何となくこれは「運命」に近いものなんだろう、と感じてはいた。

入れ替わっている(いない、と言う方が正しいのかもしれない)のは、私だけ。

この世界では、私は普通とは違う存在なのかもしれない。

「キーン、コーン、カーン、コーン…。」
「あ~、最悪! お前が止めるから…。」
「どこまで俺様一直線なの…?」