でも、言えなかった。

癒紀は都樹が好きだ、なんて言ったら、私と癒紀と、それから都樹が、全員普通じゃいられない。

この三角関係は、しばらく動きそうもなかった。

ミシェルちゃんは二重人格だ、というのも、関係がこじれて、ねじれて、最後には砕けそうで怖い。

臆病なだけなのかもしれなかった。だけど、今の私は、自分自身の臆病を打ち破ることができずにいた。

都樹には少し悪いけど、やっぱり私には、一人で抱え込む以外に方法が無かった。

だからだろうか。私は少し、無口になってしまった。

「何か変だぞ?」

都樹に言われても、答えようがなかった。

私は、一体何をしたらいいんだろう? どうしていればいいんだろう?

そんなのが分かっていれば、苦労しないじゃん。自分自身に突っ込みを入れる。

それでもなお、私はその答えを模索していた。

逆説の連鎖が、また私の頭を掻き混ぜた。

…そもそも、こんな所に来たのが原因なんじゃん。戻れば、全部なかったことになるんじゃないの?

私を鏡の中に連れてきた誰かに、もう一度会いたかった。戻してほしかった。

…しかし、それはそれで寂しい気がした。

正直なところ…こっちの世界の癒紀と都樹と、離れたくなかった。

でも、別れというものはやってくる。それを実感するできごとが起こったのは、そう遠くない未来のことだった。