私は冗談のつもりで聞いたのだが、癒紀はうつむいてしまった。

「あ…もしかして、変なこと言っちゃった…?」
「…ううん、好きな人はいるんだけど…。」
「ん?」
「…ちょっと、言いづらくて…。」
「…大丈夫。別に笑ったり、バカにしたりなんかしないし。」
「…じゃあ、言うね。」
「うん…。」

少し間が開いてから、癒紀は向かいの私の顔を見た。

「私…押上くんのこと、好きなんだ…。」
「えっ…?」

何となく予想はついていたが、それでも衝撃が大きい。

「…理奈ちゃん、押上くんと仲いいじゃん? だから、言ったところで特に何も変わんないよねって思って…。」
「そんなことないって。私、癒紀が都樹のこと好きなんだったら、全力で応援するから。第一、都樹のこと、そんな好きってわけでもないし…。」

その時だった。

「お、いたいた。」

都樹が、カフェに入って来た。

「あ、都樹…。」
「悪い、遅れた。」
「別にいいけど…。」
「ねえ、押上くん。」

癒紀が都樹に尋ねる。

「さっきの質問の答え…教えてくれない?」

終わった。私の心に、真っ黒な何かが落ちてきた。