初夏、六月下旬。

制服が夏服に変わり、いよいよ夏が到来した。
教室に入り込む風も生暖かく、窓際の席にも関わらず座っているだけでも暑い。


朝の教室は生徒が登校してくるたびに騒がしさを増し、余計に暑苦しさを感じさせた。

本を持っていた手に、じんわりと汗が滲み始める。
指を紙からはずすと、少しふやけて歪んでいた。



「暑い…」



誰にともなく呟いた独り言は、騒がしい教室に溶けて消える。
見上げた空はどこまでも青くて、また昨日と同じような朝。

水飲もう、と席を立ち、本に栞を挟んだ、

ちょうどそのとき。



「椿っ!」
「こら梓。いきなり抱きついたら椿が驚くじゃん」



ドンっという衝撃と共に、ウエストに後ろから巻かさった細く白い腕。
明るい声の挨拶に続き、大人っぽいアルトボイスも続く。



「椿、おっはよ!」
「うっす、椿」



ウエストに巻きついた腕をそのままに後ろを振り返ると、友達の二人がいた。

二人は中学に上がってからの友達だが、色々話しているうちに意気投合、
今では親友と呼べる仲にまでなった。


お姉さん系の宮村 京子(みやむら きょうこ)に、
甘えたがりの沢田 梓(さわだ あずさ)、そして私、吉川 椿(よしかわ つばき)。







何をするにも三人集まって、喧嘩もなく仲良く出来ている。