シチューの匂いがした。

オレンジの照明が、ぼうっと点いたダイニングルーム。
改築したようなアイランド型のダイニングキッチン。
レースのテーブルクロスに、贅沢な色合いをした立派なテーブル。

口角を優しく上げるように微笑み、シーザーサラダを盛りつけする女性。
シチューを前に小学校4年生くらいの女の子が右奥に座り。
ネクタイを弛めた男性が女の子の向かいに座っている。

楽しい事があったのか、女の子が男性に笑顔で話しかけた。
男性は眉を上げながら大きく頷き。
女性も聞きながら微笑んだ。

これが園田さん一家なのだろうか・・?
音が、音が、まったくしない。
シチューを掬った際に皿とスプーンがぶつかる音さえも。

俺は・・。
俺は・・。

その一家が見える窓際の隅で、口を上げながら上を見ていた。
まるで水面に浮かぶ魚のように。
音のない空間で声を出そうとする盲人のように。

ただひとつ言える事は、俺は一家にしてみれば癌のような存在であると言うこと。
しかしこうして根をはるように座り、一家をここに止めて置くのである。

なぜかって?
それは寂しいからに他ならない。
独りは嫌だ。
動けなくなったからって、老人ホームに捨て置かれるなんてあったものか。

許せん!
まだ歩ける!まだやれる!!
許せん!!