「・・で。聞きたい事って何よ?」
ハッシュが人の冷蔵庫から勝手にキュウリを出すとマヨネーズにつけて食べはじめた。
そして・・ハッとした表情でこちらを見た。

「キスした話?」
「違います・・。」

じゃあ何だ?
と、ハッシュは台所で上を向いて考えた。
コイツ、わざとやってるのだろうか?

「橋本エリアマネージャーの話だよ。」
俺もハッシュに歩み寄ると、ついにしびれを切らして言った。
「ん?それがどうした?」

「どうしたじゃないでしょ!?。俺はアイツを・・うっ!!」
次の瞬間、あの光景がフラッシュバックした。
倒れて、溶け出す体。
一心不乱に撃ち続ける自分・・。

「大丈夫?」
ハッシュに頭を撫でられ、我にかえった。
話を続けなければ。

「つまり言いたいのは。橋本さんがどうなったかだよ!!」
「どうなったかって・・。俺が知るかよ。」
「は!?知らない!?」

ハッシュはこちらを見ながらキュウリを咀嚼して飲み下した。
そして続ける。

「俺達の仕事は、人間から抜け出た妄霊を退治する事でしょ?分離して『脱け殻』になった人間がどうなったのか。知った所でどうする?」

「どうするって・・。」
言葉につまる。

「『脱け殻』と話でもするのか?」
「そ、それは・・わかんないよ。てゆーか、どさくさに紛れて頭を撫でるのやめろ。」

手を振り払うと、ハッシュは淋しそうな顔をフッとした。
まるでサッカーを一緒にやっていた友達が、今日は塾があるからと帰ってしまった日のような。

「妄霊退治が嫌になった?」
「・・・。」
返す言葉が無かった。
嫌になる、ならない以前の問題だ。
もしかしたら俺は・・橋本さんを殺してしまったのかもしれない。
そんな気さえした。