「お・・わっ。」
「すごいでしょ?」

部屋には上を向いたまま、口をパクパクさせた爺さんが二人並んで壁に座っていた。

部屋には弾が散乱し、弾が出た状態でショットガンも落ちていた。
どれほどの闘いがここであったのだろうか?

「ものすごい圏の塊だったよ。一つが物体の爺さん。もう一つは、妄霊の爺さんだな。ほら、見てくれ・・」
ハッシュは妄霊の方の爺さんの顔を引き寄せた。

「妄霊が上の位にいくと『クチビ』になるんだ。」
「クチビ?」
ハッシュは、妄霊の方の爺さんの口を指差した。
よく見ると口のまわりに赤い斑点がある。

「昔は、漢字の口に火で『口火』とも言ったらしい。
妄霊を放っておくとやがて口火になり。妄霊が妄霊を呼ぶ亜空間が出来るんだ」

「亜空間!?」

「そう。トモヒーが引きずりこまれたのは、口火と妄霊が作り出した亜空間だ。おそらくここに住んでいた園田さん一家が、口火に触発されて『幸福な時間』を延々と演じさせていたんだ。よっぽと寂しかったんだろうな・・爺さん。」

爺さんは、尚も口をパクパクしていた。
手首には『203番地・高森さん』と書かれたリストバンドをしている。
どこかの老人ホームから抜け出して、ここに迷いこんで来たのだろうか。

「園田さん一家の3人も、きっと幸せに餓えていたのだろう。妄霊になった事を考えたら、円満な家庭では無かったんだろうな。」
ハッシュは静かに言った。
ここに住んでいた園田さん一家は今、どこで何をやっているのだろうか?

「口火は、放っておくと更に悪化して『炎霊』になるんだ。エンリョウになれば、他の妄霊を吸い込むタチの悪い存在になる。その前に狩ってやらないとダメなんだ。」
ハッシュはそう言うと、俺からナイフを取りあげた。

そして
「ぐ。ぐぇええ・・」
口火になった爺さんの脳天から首までを切り裂いた。

「炎霊の中で・・さらに行くとショウジョウになる。ショウジョウになったら、もう無理だわな。」
ショウジョウ?
何かで聞いた言葉だ。
あれ?なんだっけ?

「ハッシュ、見てみろよ聖水を飲んでやがるぜ」
ハッシュは熟女の聖水を肉体側の爺さんに浴びせかけた。
この聖水が、ショウジョウが何だとか言っていた気がするが・・なんだっけ。

とにかく、その時のハッシュの顔がすごくサディスティックで怖かったのが一番の印象だった・・。