歌声は君へと




「それからずっとここに住んでるの。貴族であっても色んなことをした経験があってよかったわ。今はキアラがあるし、ね」

「寂しくはないのか」

「ちょっとは。でもスノウもキアラもいるし、今は貴方がいるでしょう」

「……俺は賑やかな方ではではないが」

「キアラは喜んでるわよ。お兄ちゃんってね」




 そういうと、なんとも言えない顔をしたサイラスに笑みがこぼれた。「あれには、まいる」ともらしたそれに、ああと思う。
 例の"ぱぁぁぁぁ"攻撃を受けるだろうから。

 そろそろ寝ないとな、と思った私に「どうして、そんな風に笑える?」という低い声がかけられた。
 それだけのことがあっても何故、と。

 私だって、最初のころは泣いた。死んでしまいたいと思った。こんな姿で、どうしろというのか。下手したら殺されてしまうのに、と。
 怖かった。いや、今も怖い。
 けれど、とそこに大きな姿が入り込む。スノウだった。

 どうしたの、とでもいいたげなそれは、鼻先をすり付けてくる。その鼻先に触れながら、私は考える。
 笑えなかった。
 泣いたし、死んでしまいたいと思ったこともあった。そういうと、サイラスは黙ってしまった。




「私はここで生きてるんだもの」

「……」

「貴方も辛いことがあったけれど、死ぬだなんていっちゃ駄目よ。今貴方が死んだら悲しむ人がいるのだから」

「悲しむ人?」

「キアラも、私もいるじゃない」




 せっかく助けたのだ。
 それに、本心だ。辛いことがあったからこそ、生きてほしい。
 些細なことでも、笑えるような…楽しいことがあるはずだから。

 過去は消せない。

 けれど、共に生きて行けるはずだと信じているのだ。





  ▼3 女、過去を話す 了