誰かに話したのは、サイラスが初めてだ。過去を話すというそれは、傷を思いだし、抉らせるかのようだ。だが、自分の中だけで閉じ込めておくのは苦しい。苦しいからこそ、誰かに話したくなるのかもしれない。
声がふるえたのが知られたのか、こちらを向いた彼に誤魔化すように膝を抱えて息を吐く。
あのあと、目を覚ましたらすでにこんな姿たった。
何かの冗談だと思った。悪い冗談、悪い夢であると。
「呪術師、だろうな」
「呪術師?」
ああ、とサイラスは頷き説明してくれた。
呪術師というのは、自然に存在している精霊などに呼び掛けてその力を借りる者たちのことをいうらしい。
サイラスの国ではそんな者らがいるそうで、ここでいう魔女や精霊と似たようなものなのだろう。そういうと彼は頷いた。
姿が変わってしまって、私は途方にくれた。
家に戻ることは出来ない。なら、どうしたらいいのか。
まずは、私はその場から離れた。離れて、宛もなくさ迷った。途中魔物にも遭遇したが、魔物は私を襲ってはこなかった。這うようにして進んで進んで、奇妙な人に出会った。
リーチェの傍にいた人のような、黒いフード姿だった。殺しにきたのだろうか。それでもいい。
もう、疲れた。
そう思った私に、フードをとったその人は女性だった。まわりは森で、こんなところに女性が一人でいるのはおかしい。私は涙に濡れた顔のまま、『生きるのです』という声を聞いた。
『ここからずっと奥に、古い小屋があります。貴方はそこで暮らしなさい』
『生きるのですよ』
風が強く吹いて、私は顔を庇った。次に見たときはいなくなっていたのだ。
私は半信半疑で森の奥へと進んだ。森は深く、立派な木々がたくさん姿を見せた。人は近寄らないというそれは、手付かずのままの美しさを放っていた。
――――そして、そこで見つけたのが今の"家"である。
小屋には生活出来るだけの物が揃っていた。しかし、だ。
不思議なことに、衣類なんかは女性物であった。あの女性のものなのかと、私は女性を待った。だが、今に至るまで女性には会っていない。
小屋に女性物の衣類があるのは、違和感がある。あるとしたら男性物ではいだろうか。
一体どういうことなのか、今でもわからない。あの女性は何者なのか……。
あの女性も呪術師なのだろうか?
それとも、森の古い神なのか。
今でもわからないが、私は女神様ではないかと思っている。
女神様が、生きろといったのだ。
不思議ではあったが、私は生きることにしたのだ。貴族でありながらも、気にかけられず自由に過ごしていた日々で知ったことを何とか活用して……。


