―――それは数年前の、話。
私が小さい頃、母は死んでしまった。父はその後、新しい妻を迎える。
『はじめまして』
そういってこちらを見てきた女性は、なんだか恐ろしかった。母の優しい雰囲気だなんていうものは一切なくて、化粧と、香水のそれに私は不安になった。新しい母。そんなのはいらなかった。けれど、父を悲しませたくはなかったから、私は黙った。
家柄は、中流の貴族だ。とはいえ中流でも下に分類されるだろうそんな家に、新しい母と父の子供が出来る。弟と、妹。異母兄弟というそれでも、弟や妹であることにはかわりなかった。
そう。
かわりなかったはずなのだ。
いつしか、私は一人だった。新しい母は私などには目もくれず、むしろ使用人のように呼びつけた。
『それは辛いだろう?』
『でも、慣れてしまったもの』
『そんなの慣れる必要はないよ、イシュ』
彼は中流貴族の一人だった。互いの父が友人同士で、よく会っていたのだ。
美しい金髪に、青の瞳は心配そうに揺れていたので、私は「平気よ」と笑う。木の下で、のんびりこうして過ごしている間は平和だった。
彼と、幼馴染みのようなカイルと過ごす間だけは、平和だった。
…――――そこまで話して、私は息をはく。
サイラスが話してくれたのなら、私も話したほうがいいと思った。何となく、そんな気がした。
貴族だったのか、というそれに「まあね」と笑い返す。
「でも、殆ど自由だった。跡継ぎは弟だし、母は妹と弟にしか興味はなかったからあちこち出歩いたりして」
そう。
私はいないのと同じだった。食事するのも別々で、赤の他人のようなものだった。
だから、自由だった。
幼馴染みと、私。


