歌声は君へと





「これ、どうぞ」



 男は少し躊躇いがちに受け取った。そして、私の後ろで様子を見ているキアラの、例の"ぱぁぁぁ"という表情にやられたのか、匙をとって口に運ぶ。
 ……よかった。

 キアラがあげた花はまだ、すぐ近くに置いてある。
 黒髪に、日焼けしたような肌。巻かれた白い包帯が目立つ。所々に傷があるのまで見たとき、わぉん!とスノウの声がした。何ごとだろう。「見てくるね」とキアラに言い残し、私は外へ向かう。
 



「えっ!」




 白銀の毛を持つスノウは、こちら側に顔をむけてお座りしていた。
 で、問題なのは、だ。




「ど、どちら様…?」




 どちら様、といったがそれは人ではなかった。茶色の、馬、である。

 なんで馬?

 森に野生の馬がいない、訳ではないが……と、近寄れば逃げる気配がない。それもそうだろう。ちゃんと人が乗るように鞍がある。なら、人は?
 何もないなら野生であろうが、鞍なんかがついているのら話は別だ。人は何処に?
 
 ちらりとスノウを見る。
 どうやら、スノウがつれてきた、らしい。あれ、待って。
 男をみつけたのも、スノウではなかったか?
 どことなく得意気な顔をしているように見えるのは気のせいか。

 鼻先を撫でてやる。すると甘えるようにすりよってくる。




「もしかして、君の主人は…」




 そう思って、ちらりと家の方を見る。
 だとしたら、見ればわかるだろう。

 今はまだ、と「おいで」と呼ぶと素直についてきてくれる。
 近くにある大きな木にでも繋いでおけばいいだろう。


 ……なんだかな。


 私は人知れず、溜め息をついた。 




  * * *