歌声は君へと





 
『駆け足で過ぎ去った日々を今、私は思い出しています』



 じゃぶじゃぶと音をた洗濯をしながら、歌をうたう。
 包帯に滲んだ血が落ちていくのを見ながら、まだ目を覚まさないあの男性を思う。

 一応、洋服は綺麗に洗ってある。
 しかし、着替えがない。
 なので未だに彼は半裸状態なのである。

 服はもちろん、女ものしかない。シーツとかそのあたりくらいしか大きな布くらいしかない。
 申し訳ないが、仕方ないのだ。
 



『苦しいことも、悲しいことも、多くて』




 目を覚ましたとき、お腹に優しいものを用意しなくては。
 



『それでもあの時、わたし、笑っていたわって、思い出すの。あの時、そう、確かに』





 ――――ねぇ、イシュ。

 ちくり、と胸が痛んだ。声すらはっきり覚えている自分が、苛立たしく思える。
 あの人は私を信じてはくれなかった。
 そう、私を……。

 ひやりとする蛇の体に触れながら、いつまでこの姿なのかと思う。
 人里には出ていくことは出来ない。なので今、世間が一体どんなことになっているのかさえわからない。あの人のこともまた、どんなことになっているかわからない。

 もう、いい。
 あの人のことなど、もう。


 溜め息が出た。
 戻ったら洗濯物を干して、それから畑にいかなくては。
 食べ物に感じでは自給自足。なので畑はものすごく大事だ。手入れをこまめにし、歌い、大きく美味しく育ってくれることを願う。
 育ち盛りの子供もいることだし、ね。