「あぁ、悠希、おかえり」
書斎から出てきたお父さん。
「ただいま」
「お昼、千暁くんが来たよ」
「え?」
千暁、が?
「なんだか知らないけど用があったみたいだから、後で連絡しておきなさい」
「う、うん」
連絡……しないけど。
「おっ、今日は和食か」
嬉しそうなお父さんの声。
千暁が私に、なんの用だろう。
もう今さらなのに。
新着のメッセージを開かず、トーク履歴をすべて消去。
これで、いいんだよ。
これでいいの。
必死に言い聞かせて、携帯をソファに放り投げた。
「お母さーん、なんか手伝うことあるー?」
「あ、じゃあお皿準備してくれる?」
もう、思い出にすがり付いてちゃだめなんだ。

