「……ごめん、崎谷さん。いくら崎谷さんのお願いでも言えない」
「なんで?」
「言えないものは言えないよ」

いつもはやさしすぎて気弱そうに見える七瀬だけど、今日ばかりはきっぱりとした口調で言い切る。その表情に断固とした意志を感じ取って、あたしは七瀬由太から聞き出すことを諦めた。

「………じゃあ渚が話して」
「お断りだ。悪ぃけど、男のメンツの問題だから。オンナは首突っ込んでくるな」


さすがにその言いぐさにはカチンときた。


「何、それ」
「おまえだって自分のことあんま話したがらないんだから、おあいこだろ」

「……心配してるのに、そんな言い方することないでしょ……っ」
「うっせな。いいからおまえは黙って俺に守られてりゃいいんだよ」

(なにそれ………っ!!)

渚は投げやりに言いながら、寄りかかっていた七瀬の腕を振り解いて家に上がった。

「由太、悪ぃな」
「べつにこれくらい。……じゃあ俺帰るから。腫れてるとこ、よく冷やしておけよ」
「おう」

そんな短いやりとりを済ませると、渚はあたしに構うことなくすたすたと自分の部屋に向かう。あんまりにも一方的に会話を打ち切られたあたしは、まだ玄関先に七瀬がいるというのに思わず悪態をついていた。


「何あいつ。……あのバカ、なんなの……わけわかんないっ!!」


どうせあたしは渚の親友でもカノジョでも家族でもないけど。……でも心配すらさせてくれないなんて。「守られてりゃいい」だなんてていのいい言葉でただあしらって、何も事情を話してくれないまま放っておくなんてひどい。

渚がボロボロになった理由があたしに関係あることだとしても、全然関係ないことでも、あたしを巻き込んでくれればいいのに。話くらい聞かせてほしいのに。