【渚のお父さん】


いろんなことがありすぎて、緊張してその夜は布団に入ってからもなかなか眠れなかった。

明け方頃に同じ部屋で寝ていた愛さんが出勤のために起き出したときも、あたしは天井をぼおっと眺めたままだった。


「眠れなかった?」

着替えを始める愛さんに訊かれて、あたしは布団に寝そべったまま頷く。

「無理もないよね。……でも眠れなくてもいいから、このまま横になってな。大丈夫、この家には仁花ちゃんを怖がらせるものは何もないよ。……まあでも哉人のエロガキが万が一仁花ちゃんの布団に潜り込んできたら、金的蹴り上げてやって潰してもいいから。姉のあたしが許可する」

その冗談にちいさく笑っているうちに、不思議とあたしの体からは余計な力が抜けて次第に瞼が重くなってくる。

「おやすみ、仁花ちゃん。ゆっくり休みな」

愛さんのそのやさしい言葉は、子守唄かおまじないのようにあたしを眠りの世界へと誘った。





次に目を覚ました時、部屋の机にあった置時計は午前11時を示していた。

いくらなんでも寝坊が過ぎる。あたしは慌てて飛び起きると、枕元に『あたしのワードローブからなんでも好きなモノを着て!』という愛さんのメッセージが書かれたメモを見付ける。

あたしがすこし迷った末にラフな素材のスポーツワンピを拝借して一階に下りていくと、居間でテレビゲームの対戦に夢中になっていた哉人くんと荒野さんが手を止めてなぜか歓声を上げてきた。


「ふわぁッ天使がっ!!寝起きの天使がいるよ、マジかわいいっ!!くしゃった髪、サイコーぉ!!」
「ひ、仁花ちゃんおはようっ、うわ、姉貴のダルダルワンピースが超可愛いミニワンピに見えるぅぅ」

ふたりの態度にどう反応していいのか困っていると、先に荒野さんがはっと気づいて時計を見る。