「俺だってわかってんだよ。由梨亜は優しいし女らしいし、美人だし。世の中の男みんなが羨ましがるような女で、どう考えたって由梨亜以上に上等なヤツがいるわけねぇって。……それでも俺はおまえがいいって言ってんだよ。どっちか片っぽしか助けらんねぇなら、あいつのこと振り切ってでもおまえの手を取るって、もう俺は腹括ってる。覚悟がねぇのはおまえの方だろ」


それから渚は、力なく呟いた。



「……これ以上何言えば、おまえは俺を信用するんだよ?」



歯痒そうな顔をする渚を見て、あたしはようやく自分が渚をひどく傷つけてしまったのだと気付く。




あたしは渚が信用できないわけじゃない。あたしが信じられないのは、あたし自身だ。

あたしは渚に大事にしてもらえる自信がない。

リア先輩みたいに、当たり前の顔をして自分がふさわしいって思って渚の隣にいられる自信がない。


そんな弱気のせいで渚のことまで傷つけてしまう自分のことを、大事に出来る自信がない。






「………冷えてきたから、家の中に戻るか」


あたしがどうしようもない感情で雁字搦めになっていると、渚がそういってそっとあたしの背中を押してくれる。

なにひとつはっきりした言葉を返せないあたしをそれでも渚は責めたりしないで、わずかに笑いながら言った。


「身内褒めるの馬鹿みてぇだけど、姉貴の唐揚げはすげぇウマいから。おまえも飯、ちっとは食えよ」
 

直前まで諍いをしていたとは思えないほどの、やさしい言葉。その懐の大きさは、やっぱりあたしがなりたくてなれなかった姿だった。