「……俺は由梨亜に触るの、なんとなく後ろめたい気がしてたから踏み切れなかった。たぶん、おまえの気持ちに応えられる自信がなかったからなんだろうな。……でもこいつに触るのはもっと怖いから、もしこいつが『いい』って言ってくれても、たぶん簡単には踏み切れねぇよ」


そういって渚は、ちらりとあたしに視線を向けてくる。


「俺は自分がこいつにどう思われるのか、すげぇ怖ぇ。だから手なんか簡単に出せねぇ。……でも由梨亜のことは、そこまで思ってやれなかった」



そういうと、渚は先輩に向かって頭を下げる。



「やめて。なっちゃん、こんなのやめて」

「中途半端なことして、本当に悪かった。由梨亜はなんも悪くなんかねぇよ。ただ俺が馬鹿過ぎたんだ」

「……やだよ、そんなの……なっちゃん、また私にバイバイ言う気なの………?」


渚は硬い表情のまま、頭を下げ続ける。


「お願い、そんな顔、しないでっ。私ちゃんとなっちゃん好みの女の子に変わるから。もうわざと他の男の子と仲良くしたり、ヤキモチも焼かない。なっちゃんが好きなときにエッチもするし、なっちゃんがして欲しいことも覚えるから。だから。だからお願い、別れるなんてもう言わないでっ」


リア先輩みたいなひとに泣かれて、こんなふうに引き止められたら簡単に切り捨てられるわけがない。でも渚はすこしも揺るがない表情でその一言を放った。



「ごめん。謝って済むことじゃないけど、本当に悪かった。でも由梨亜。俺が好きなのはおまえじゃなかったんだ」