【谷岡由梨亜】



「……誰なのその子」

学校帰りにそのまま渚の家に立ち寄ったらしく、リア先輩は制服姿だった。同じ女のあたしが見ても見惚れるほどきれいでやさしげな目に、今日は敵意を漲らせてあたしを睨んでくる。


「由梨亜」

「なっちゃん、誰なの、その子ッ!!………どうして?私、待ってるって言ったのに。なっちゃんの気持ちが元に戻るまで、ちゃんと待ってるって言ったのにッ」


リア先輩は今にも泣き出しそうなくらいに顔を歪ませて、あたしたちの方へと歩み寄ってくる。


「なんでそんな子と一緒にいるの?なんでそんなたのしそうな顔してるの?どうして?なっちゃんは私のこと、嫌いになっちゃったの?だから別れるなんて言ったの?」


先輩に詰め寄られた渚は、一瞬痛そうに顔を歪める。けれど、それでもきっぱりと言った。


「由梨亜のこと、嫌いになったわけじゃない。けど、俺はもうおまえとは付き合えない」

「……っ嘘だよ、だってなっちゃん、私にちゃんとキスしてくれたでしょ?」


先輩の目尻からはついに大粒の涙がつたいこぼれる。渚は後ろめたさからなのか、視線を落としながら言った。


「おまえのことはほんと自慢だった。……好きとかよくわかんなかったけど、おまえ美人だしモテてたし。そういう由梨亜に好かれてて正直いい気分だった。おまえ日本に帰ってきてから、なんか俺とおまえが『付き合ってる』って勝手に周りに誤解されはじめたときも、いちいち否定すんのが面倒だったし、おまえのこと嫌いだったわけじゃないし、もうそういうことでもいいかって、流されといたけど。……でも俺は」

「待って。それ以上言わないで。……私の何がいけなかったの?……私がまだ、エッチさせてあげてなかったから?この子はさせてくれるの?もうしちゃったの?」



リア先輩は、あたしが持ってた下着が突っ込まれたバケツの中を、信じられないような目で睨みながら言う。

渚は静かに首を振った。