「どうして何も言わねぇんだよ」


あたしが何も答えられずにいると、渚は苦笑して首を振った。


「……悪い。おまえさっき怖い思いしたばかりなのに。こういう無理強いするみたいなこと言って」


渚が身を引こうとしたから、あたしはとっさにその目をじっと見て。瞼を閉じた。

あたしの望みを正しく悟ったのか、渚が顔を寄せてくる気配がする。




-----悪い子。自分からキスを誘う顔して、ねだって。

-----きたない子。まだ曖昧な関係のままでいたいのに、それでも渚のそばにいたいと思うなんて。



あたしなんて全然ダメなヤツなのに、それでも渚がそっとくちびるに触れてくれる。



「俺じゃ頼りにならないのか」

「……違う」

「じゃあ俺におまえを守らせろよ」

「……でも聖ちゃんがおかしくなったのは、たぶんあたしの所為でもあるんだよ?あたし、聖ちゃんをさんざんわがままで振り回して勝手なことばっかり言ってたから。……あんなことになったのも、全部あたしが……」

「だとしても。これからどうすりゃいいのか、一緒に考えてやるから。だから俺のこと、簡単に突っぱねたりすんなよ」


返事は出来なかったけど、小さく頷くと。すこしだけ表情が硬くなっていた渚が、ふっと笑ってくれた。


「ほんとおまえ、強情だよな。けどしょうがねぇから、今はこれくらいで許してやるよ」


そういってぐしゃぐしゃと乱暴にあたしの頭を撫でてくれる。



-----こんな時間が、ずっと続けばいいのに。



あたしはそんなことを思うけど。その願いは、やっぱり長くは続かなかった。



「……なっちゃん?」



頭を撫でてきていた渚が、じゃれるようなキスをしてきたときだった。

突然した声に驚いて振り返ると、そこには呆然とした表情のリア先輩が立っていた。