「うわ、コイツ今否定しなかったぞ、やっぱ思ったんだ」
「やっぱ渚ってさぁ、ムッツリだよねー、前からそうじゃないかと思ってたんだー!」


弟の哉人くんはするりと渚の横をすり抜けると、あたしの前に詰め寄ってきた。


「あ、ども、きれーなおねーさん!俺、水原家の三男で、4人姉弟の末っ子の哉人(カナト)って言います!さっきから思ってたけど、めっちゃ美人ですね!ボクと付き合ってくださいッ!」


哉人くんはあきらかにふざけてて、本気じゃない感じだ。けどこういうテンションにどう返せばいいのかあたしには分からなくて戸惑っていると、渚が半ギレになって哉人くんの襟首を掴み上げる。


「てめぇが口説いてどうすんだ」

「え、だって、こんな可愛いコ前にして口説かないとか、逆に失礼じゃん?ってかお名前教えてください!好きです!第一印象からあなたに決めてました!!」


哉人くんは渚にギリギリと首元を吊り上げられつつ、懲りずにあたしに握手を求めるかのように右手をぐっと突き出してくる。戸惑っていると、渚は「握り返さなくていい」って険しい顔してぴしゃりと言ってくる。


「………あの。崎谷仁花です。渚と、同じクラスの……」

「仁花ちゃんかあ。うわキレイで可愛い名前だね!イメージぴったり!俺のことは『哉人』か『カナ』でいいから。ちなみに今中2、花の14歳でーす!仁花ちゃんは『仁花ちゃん』でいいよね?それとも俺だけ特別に『仁花』って呼んでも……」

「……良いわけねぇだろが……ッ!」


あたしが何を言うよりも先に、渚はびっくりするくらいドスの利いた声で哉人くんを叱責する。