すごい剣幕の渚の言葉に驚いて目を開けるのと、あたしの上に圧し掛かっていた聖人が吹っ飛ばされるような勢いで渚にベッドから引き摺り下ろされるのが同時だった。

床に転げ落ちた聖人に、渚が握り締めた拳を振り落とす。渚の顔が、見たこともないくらい怖い顔になっていた。


「………やめて」


渚は何かに取り憑かれたように何度も何度も拳を振り落とす。その度に骨の軋むような鈍い音がする。いけない。このままじゃ、渚の手が。あの大きくてあったかい手が、汚れてしまう。


「……やめて渚、……お願い……ッ!!」


這うようにベッドを降りて、後ろから抱き締めるように渚を止める。渚はあたしを見ると、まるで自分の方がひどく傷つけられたかのように顔を歪めた。


「ニカ」
「…………………渚、行って。……………お願い、行って……」


震える声に、渚は戸惑う。


「けどこいつはお前のこと、」
「………………………いいから。いいのっ。だからお願い、行って。………………行ってよぉッ!!」


涙声混じりにあたしが叫ぶと、渚はあたしの腕を引っ掴んで走り出した。



「……待つんだ、ニカ」



渚に殴られた顔を手で庇いながら聖人が追ってきたから、ふたりとも靴も履かずに必死で部屋を飛び出した。