「大丈夫。ニカを大事にしてあげられるのは僕だけだよ」
やさしげな口調でそういいながら、拒否するあたしの意思をゴミのように踏み潰して、一年前のあのときのように聖人はあたしに圧し掛かってくる。
「………お願い、もうやめて……」
「ニカ、ずっと一緒だ」
聖人は目の前のあたしのことが見えていないかのように、熱っぽく囁いてくる。そのくちびるをまたあたしに重ねてくる。
「………嫌だ、たすけて……」
しばらく抵抗するように聖人の体を押し返していた。けれどあたしよりもずっと骨格のしっかりした大人の男の体はびくともしない。
たすけて。お願い、誰かたすけて。
でも。
たすけてなんていったって、どうせ誰もあたしのことなんて助けてくれない。
--------だってパパですら、あの時あたしを助けずにあたしを見捨てたじゃない。
もう無駄なんだ。
聖人から逃げられるわけがない。やさしかった聖人がおかしくなってしまったのは、全部あたしの所為なんだから。逃げていいわけがない。
どうせあたしみたいなクズの人生なんて、はじめっからこんなもんなんだよ。
そんな諦めに、抵抗しようとする力が体から抜け落ちてしまった。そのときだった。
「ニカ、いんのか?」
すぐ傍の玄関のドアがいきなり開いて、聞きなれたその声がした。それから小声で愚痴るように「ったく。鍵あけっぱにすんなって言ってんのに」とブツブツ言うお節介な声が聞こえてくる。