驚くあたしとは対照的に、その人はいつもあたしが座っているローソファーに悠然と座っていた。
ひと目で仕立てがいいと分かる優美なシルエットのスーツに、きれいに撫で付けられ整えられた髪、育ちのよさを窺わせるすっと伸びたきれいな背筋。
家主の留守中に断りもなく部屋に入り込んだ輩とは思えないくらい堂々としていて、ソファに腰掛けているその端正な姿はどう見ても立派な紳士にしか見えなかった。
すこし色白で、相変わらず思わずはっと目を奪われそうになるくらいきれいな顔。
その人は見惚れるほど美しい仕草で伏せていた目をゆっくり上げると、入室してきたあたしを見てその顔いっぱいに笑みを浮かべ立ち上がった。
「ニカ」
やさしげな顔。やさしげな声。最後に見た日から何も変わらない。
「ニカ、ただいま。ずっと君に会いたかった」
そういって身動きすら取れずにいるあたしに歩み寄ってきたのは、去年からワシントンに医学留学しているはずの聖人だった。