「ニカ言うな。……あたしこんなアホっぽい?」


ぬいぐるみはリアルな造形じゃなくて、マスコットっぽくデフォルメされてるタイプのもので、サメらしい狡猾そうな顔をしてるわけではなく、ゆるキャラっぽい敵意のなさそうな間の抜けた顔をしていた。

こういう力の抜けた顔、良く言うなら癒し系とかっていうのかもしれないけど。あたしの目にはしあわせそうなおバカ面にしか見えない。


「アホっつぅか。強く見せ掛けてて実はちょい残念なとことか。まんまおまえのキャラだろ」
「うっさい。違ぇし。………ってか渚、こんなん、いつの間に買ってたの?」


そういえばあたしは水族館でみやげものなんて全然みられなかった。べつにHRデーの記念になるようなものなんて、ほしかったわけじゃないけど。


「出口のとこにあったショップ通り過ぎようとしたらコレ見付けたんだよ。ひと目で『こいつニカじゃん』って思って」
「どこが?目腐ってるっしょ。……もうほんとさ、服のことと言い、渚趣味悪すぎじゃん?」


憎まれ口を叩きつつ、アホ面のサメを指で作った輪っかでギリギリ締め上げてやると、いびつに歪んだサメの顔を見て渚が呆れたような顔をする。


「うわ。おまえひでーことすんな。よく自分とそっくりな顔、そんな痛めつけられるよな」
「似てねぇし。あたしこんな顔じゃない」

「気にいらねぇ?」


当たり前だと即答しようとして。でも言葉に詰まる。


だってサメはふわふわで、肌に当たるその感触が結構悪くなかったから。自分のほっぺたに摺り寄せてみると思ったとおり気持ちいい。思わず何度かすりすりしてると、隣で渚がふって笑った。