「渚といるの結構楽しかったけど。なんか、潮時みたい」

「ざけんな。肝心なことはなんも話してくれねぇのに、そんな一方的にいわれてはいそうですかって引き下がれるかよ。だいたいおまえ、」

「あのね渚。あたし、人、不幸にしたことあるの」




悲劇のヒロイン気取ったみたいな陳腐な言葉。自分で言ってて笑えてくる。けど決して笑い事では済まされない罪悪が、あたしの胸を軋ませた。




「前にね。あたしの所為で、手首切っちゃった人がいるんだ」



渚にはどう聞こえるだろうって思いながら。あたしは嫌な緊張で速まった鼓動を宥めつつ、ゆっくり口を開く。



「こじれた男がいるって言ったじゃん?その人、聖人っていうんだけど。あたしの唯一の味方だったから、べつに聖人のこと恋愛対象だったわけじゃないけど、聖人に恋人がいるの許せなくて、彼女と別れさせたの。引き裂いたの、自分のために。そしたらその彼女、聖人に捨てられたことがショックで薬飲んで手首切って死掛けちゃった」



あたしはそのひとが強い女だと思ってた。

聖人と肩を並べているような人だったから。弱いあたしとは違って、聖人がいなくても大丈夫だと思ってた。けどそのひとは、聖人に捨てられたとき、あっさり自分の命を投げ出そうとした。

あたしと違って、そのひとは命を掛けられるほどに聖人のことを愛していたのだ。