「でもさ、後で愛さんから、『ドロシー役のあの子はお金持ちのお嬢様で、芸能関係の事務所にも所属してる子なんだよ』って聞いて。なんかね、妙に納得したよ。ああ、あの子は俺たちみたいなただの庶民とは住む世界が違う子なんだなあって。名前も知らない相手に、あっけない初恋だったっていうか。一瞬で現実思い知らされたわけ」
芸能事務所に所属していたとか。
そんなこともあったっけ、って今は皮肉たっぷりに懐かしく思う。
契約はもうとっくに終了してるし、たいした仕事もしていない。ただ何度か読者モデルみたいな形で雑誌に載ったことがあっただけで、レッスンにもろくに通わなかった。
だってあたしが希望したわけじゃなく、ゆくゆくはあたしにメディアに出るような仕事をさせてみたいって望んでたババアが、あたしに許可もなく勝手に登録しただけだから。
もちろんババアは、あたしにタレントだとか女優だとかそういう人前に出る仕事をこなす資質があると見込んだわけじゃなく、ただ自分好みに手入れしたあたしを他人様に「これがうちの娘です」と自慢したかっただけだ。
タレント的な活動もしていたババアが芸能界で築いたコネクションを使って選んできたのは、演技派が多く在籍して俳優の育成に特に力を入れている中堅の芸能プロダクションだった。
だからそれもあたしが「女優気取り」なんて言われるようになった要因のひとつになった。
「崎谷さん。今の聞いてた?俺一応、人生初告白なんだけど」
あたしの物思いが、七瀬のその一言で吹き飛ばされた。
顔を上げると七瀬は今日いちばんの緊張した顔をしていた。
「俺が初めて好きっていうか、いいなって思った女の子って、崎谷さんなんだ」


