「それはともかくさ。崎谷さん。大丈夫そう?」
「………だと思うけど」

「風邪とか熱とかじゃない?」
「ちがう。ただの貧血だと思うから平気」


不調の理由を精神的なものだと悟られるのが嫌で、そんな当たり障りのない理由をでっちあげると、七瀬はほっとしたように顔を緩ませた。


「よかった。だったらせっかく水族館にいるんだし、何か見よう。それともここのカフェコーナーでもうひと休みする?」
「………七瀬くんさ。本気であたしと遊ぶつもり?」

「そのつもりだけど?」
「……今日のこと、前から渚と決めてたの?」



探るように七瀬の顔を見てやっても、その顔に答えなんて書いてない。

あたしは意図を見せないままあたしに近付いてこようとする人は苦手だ。だからすこし喧嘩腰にもう一度聞いてやる。



「なんであたしなの。今日七瀬くんと一緒に周りたがってた子、他にたくさんいたのにどうして?七瀬くんはあたしに何か言いたいことでもあるの?」


七瀬はあたしの勢いにすこし気圧されしつつも、困ったような顔をする。


「………崎谷さんって結構せっかちだよな。それともわかってて俺に意地悪なこと言ってるの?」


七瀬まで意味のわからないことを言い出す。


「どういう意味かわからない」
「………わからないなら、そのあたりはちょっと自分で考えてみてほしいっていうか、察してみてほしいところなんだけど」


いくら仲のいい友達同士だからって、なんで渚も七瀬も似たような言葉の濁し方をするんだろう。
あたしが不機嫌丸出しの顔で黙っていると、七瀬の方から折れて聞いてきた。


「ごめん。怒らせたいわけじゃないんだ。ね、崎谷さんお腹すかない?渚ともう食べた後?」


あたしが首を振ると、七瀬は立ち上がってあたしの手を引いた。


「じゃ、とりあえずカフェに行って軽く食べようか」