(聖人はあたしが何を言っても、何をしても、否定しない)
(ババアとは違って、全部あたしを受け入れてくれる)



幼かったあたしはそんな間違った思い込みを抱いたまま、聖人が見つけてきた彼女との仲を何度も何度も引き裂いてやって。あたしはどんどん可愛げのない女の子になっていった。





そして去年。

15になったとき、聖人に決定的に間違ったことを言ってしまった。






『真奈美のことはニカも気に入っていると思ってたのに。僕に相応しくないから別れろなんて、言われるとは思わなかったよ』

『だってあの女、いい人すぎてなんか胡散臭いじゃん?』



いつもあたしが言えばすぐに恋人と別れてくる聖人だけど、真奈美さんには未練がありそうな顔をしていた。



『あんなに真奈美に懐いてたくせに、ひどいことを言うな。でも。仕方、ないんだよな……?だってニカには僕しかいないんだから……』


落ち込んだ顔でまるで自分に言い聞かせるように言う聖人が気に食わなくて、あたしはいっそう幼稚で傲慢な考えを爆発させた。


『何言ってんの。違うでしょ、聖ちゃん。何勝手にあたしのせいにしてるの?だって本当は“あたしに聖ちゃんしかいない”んじゃなくて、“聖ちゃんにはあたししかいない”んでしょう?……かわいそうな聖ちゃん』


項垂れている聖人の頭を撫でながら、あたしは囁いていた。


『本当はあたしじゃなくて聖ちゃんがあたしにそばにいてほしいから、真奈美さんのこともフッたりしたんでしょう?いつでもどこでも優等生のフリしてる聖ちゃんは、あたし以外のひとといるのはほんとは息苦しいんでしょう?……本当にダメなどうしようもないヤツだね。しょうがないから、あたしがずっとダメな聖ちゃんのそばにいてあげるから』



上から目線なあたしの言葉。

あまりに生意気で高慢なあたしを叱ってくると思ったのに。



聖人は笑っていた。

背筋が震えるような、恍惚とした顔で。




『……ニカ。やっと言ってくれた。僕はね、ずっと。ずっとニカからのその言葉を待っていたんだよ』




◆ ◇



「崎谷さん。………崎谷さん!」



一瞬、自分が今どこにいるのかわからなくなっていた。

目に映っているはずのくらげの姿すらあたしには見えていなかった。