『……七瀬くんって、キスしたことないんでしょ』
思わずつらそうに目をつむった七瀬由太に言っていた。
七瀬は体をびくりとさせて驚いて、キスしないうちに目を開けた。
その顔は『キスしたくない』という気持ちと『しなきゃいけない』という気持ちで激しく揺れているようだった。
いじめてやりたくなるその顔を見て、あたしは冷たく吐き捨てた。
『息詰めすぎ』
あたしの冷ややかな駄目出しに、七瀬由太は息を飲んだ。
『それに必死すぎだし、キスするとき先に目をつぶる男とか、マジきもい』
その途端。
七瀬由太は火を噴きそうなくらい顔を真っ赤にさせて、あたしから離れた。
あたしにキスすることなんて出来ないまま、屈辱に顔を歪めて、心底恥ずかしそうに図書室を飛び出していった。


