愛なんてない




「相良さん、今日は弥生さんもいつになく元気でしたよ。
窓から風を入れた時、頬や唇が微かですが動きましたから。
眩しい光にも少しずつ反応しましたし」


佐々木さんの教えてくれたのは本当に些細な出来事。


けれども、十年。十年間ずっと何の反応も示さない弥生を見てきて。それは大きな進歩だった。


たとえ一生このままでも。


俺はずっと弥生を――。


佐々木さんと明日の約束をし、2人きりになった俺は2人分の夕食を作り弥生にも並べる。


そして、今日あった出来事を話ながら夕食をともにするのだ。


寂しくはない。


弥生がそこにいてくれるだけで俺は幸せなのだから。