「相良先生、弥生は今朝も同じでしたか?」 職員室に向かう最中、麻美といつもの問答を繰り返す。 「ええ、変わりはなく。でも、春の気配は感じてるようでしたよ。ちょっと瞼が動いた気がしましたし」 「そうですか……良かった」 麻美はそれだけで嬉しそうに微笑む。 「でも、相良先生もあれから十年間ずっと弥生を。本当にありがとうございます」 麻美は俺に向かい、ぺこりと頭を下げた。 そう。 十年前の5月に自殺を図った弥生は命を取り留めたものの、意識不明状態がずっと続いていた。