だから、わたしは。
思わず彼にすがりつき全てを打ち明けていた。
わたしのそばにいて欲しくて。
わたしの前から居なくならないでと願って。
幼過ぎて順序立てて話すのが難しいうえ、感情的でまともにまとめられるわけがない。
そんな子どもの支離滅裂な話を、彼は辛抱強く最後まで聴いてくれた。
そして、彼はこう言ってくれた。
『僕はずっと君を知ってたよ』
と。
『君たちがとても仲がいいご家族だということも。君たちを見てるだけで家族がいない僕にはとても幸せに思えた』
――だから――
『その恩返しを、僕はしたい。
君が良ければ僕は君を迎えに来る。十年待っててくれないか?』
なぜ、彼がそんな事を言ったのかわからない。
けど、その時のわたしはただ頷くしかなかった。
月光に淡く輝く夜桜の下で、わたしは当てのない約束を交わした。



