「望月さんっ!」 あ…… 耳元で声が響いても、わたしは見なかった。 見えなかった。 聞き覚えがある男の子の声だろうが、わたしは反応せずにただひたすら京を目指す。 イカナクチャ。 キョウガマッテル。 国語科準備室。 文芸部の部室も近いそこのドアをわたしは躊躇いもなく開く。 「望月か」 京の声がお腹の底に響く。 ミツケタヨ、キョウ。 ワタシガモトメタヒト。 わたしはにっこり笑ったと思う。