けど、相良先生はわたしの腕をがっしり掴んで離さない。


「そっちは繁華街だろ。こんな時間に何の用だ?」


繁華街、と聴いてわたしはそれなら時間を潰せると思い直した。


帰りたくない。


家に帰れば、自分が独りになってしまったんだと自覚させられてしまう。


お兄ちゃんはわたしのお兄ちゃんから“咲子さんの夫”に変わってしまうから。


わたしがまだお兄ちゃんを必要だなんて、そんなわがまま言えない。


わたしが家にいれば、きっと2人の邪魔をしてしまう。


気をつけていてもきっと無意識に咲子さんに不愉快な思いをさせてしまう。


だから、お兄ちゃんが咲子さんにプロポーズした一年前。わたしはアルバイトを始めて1人暮らしの準備をしてきたんだから。


お兄ちゃんの幸せを壊したくなかったから。


わたしは独りでも平気だって、独りでも生きていけるって。ずっとずっと言い聞かせ続けてきた。


それなのに……


なぜ、相良先生はそんなにも切ない顔でわたしを見るの?