お兄ちゃん、今頃咲子さんと仲よくしてるかな?
3月の冷たく暗い雨のなか、寂しさを感じたわたしは駅とは違う道を歩きだした。
今晩はわたし……帰らない方がいいかもしれない。
役に立たないカバンを胸に抱きしめ、トボトボと夜道を歩く。
寒い……
でも、帰りたくない。
何分歩いたかわからなくなった頃、一度通り過ぎた白い車がなぜか停まり、バックで戻ってきたのに気付いた。
運転席のドアが開くと、顔を出したのは相良先生だった。
「望月! おまえいったい何してるんだ!? こちらはおまえん家と反対方向だろ」
「……先生には関係ありません」
わたしの気持ちや事情なんて、相良先生にとってどうでもいい癖に。
きっと話したっていつものお堅い口調で「バカ言ってないでサッサと家に帰れ」っていうのが関の山。
この先生があたたかい対応をしたなんて話を聴いた事なんかない。
わたしは関係ありませんと言い切ったまま、相良先生の脇を通り抜けようとした。



