「じゃぁ失礼…しま、す」
その後ろ姿を眺めながら一応宮地に一言言って、足を動かそうとした。
「…前より表情豊かになったな」
私にしか聞こえないような小さな声。
その顔はバカにしたものではなくて、穏やかで暖かいもの。
“居場所は見つかったか?”
そして前にされた質問を思い出した。
「…お陰様で。私の居場所は見つかったみたい…ですよ」
多分、と付けたしくるり宮地に背を向け、一歩足を踏み出した。
「まぁ見た目あんなんだし、お前も苦労するかもしれねーけど、いい奴らだからな。そこはわかってやれ」
背後でそう呟く宮地は、担任ってだけで私には何の関わりもないと思ってたけど、こうやって私を気にかけてくれているらしい。
そしてタク達を見た目で判断するような、上っ面だけじゃない数少ない大人みたいだ。
この転校で私の人生は大きく変わったんだと思う。
今私の周りには優しい人で溢れていて、こんなにもこの居場所が私にとって心地いいものになるなんて、転校した日に想像できただろうか?
「わかってますよ。これでも一応」
普段口で悪態をついていても、根本が優しい奴らって事は私もちゃんとわかっているつもりだ。
廊下から「おい心行くぞ!」タクの声がして、私はその声の主の元へと早足で向かった。


