涙をこらえるので精一杯だった。

私の存在は丸無視の岳の発言に、さすがに椎奈も彩乃もキレかかっていたけど、私が手でせいした。


「岳、人が一生懸命作った物に対して、その言い方はないでしょ。」

麗花ちゃんが可愛い顔に似合わず、怖い顔で岳を見た。

岳はそんな麗花ちゃんを見ずに、よそを見てまったくの無視。

微妙な雰囲気になってしまっので、私がいそいでフォロー。

『麗花ちゃん、いいから! 今、準備中でホコリも飛んでるし、確かに衛生的に良くないから。』

私はつくった笑顔で、でも完璧な笑顔で麗花ちゃんに言った。

別に、岳のこういう態度は今始まったことでもない。

そう思えば、なんとか泣かずにすんだ。


「ごめんね、美優ちゃん。クレープ、当日の楽しみにとっとくね!」

麗花ちゃんは、本当に申し訳なさそうに言って、岳と一緒に作業に戻った。

やっぱり作業は2人でやるのだと、再確認してしまい、さっきまで引いていた涙が、また押し寄せてきた。


「本当、なんなの! 佐野岳。」

椎奈は、抑えていたものを爆発させていた。

『椎奈、聞こえるから。』

「だって、ー」

「しい。」

彩乃は言葉をを遮って椎奈をとめた。

そんな彩乃の表情から、何かを読み取ったのか、まだ納得していない様子だったが、椎奈は黙った。

また2人には気を使わせてしまったな。


『これもったいないし、食べちゃおっかなー。』

私は、後ろにいる2人の方を振り返って言った。

「そーだね! 食べ物を粗末にしちゃダメだし、いただいちゃいますか!」

彩乃は明るく答えてくれた。

「昨日のクレープとどっちが美味しいかな?」

椎奈もさっきまでの事は切り替えて、笑顔で話している。

本当に2人には感謝しても仕切れない。

『ありがとね。椎奈、彩乃。』


2人は何も言わずに、笑顔でうなずいてくれた。その後は3人でクレープを食べた。

昨日のクレープとは違った、とても温かい、優しい味がした。