「ああー。どうしてこの子はこんなに無自覚なんでしょう。」
生地を焼いている美優の隣で、フルーツを包む役割を担当している彩乃は、後ろにいる椎奈ことばを投げかけた。
「無自覚は今に始まったことじゃないからこの際置いといて、佐野岳見てみ!」
2人が何か言っているが、今は岳を見ている暇はない。
とりあえず生地を焼いてはやくお客さんに出さなきゃ。
『もお二人とも、はやく手動かして!』
一向に仕事を再開しない後ろの二人に文句を言って、前を向こうとした時一瞬こっちを見ている岳と目が合った。
今までの無愛想な目つきとは違う、怒った目をした岳と。
一瞬動揺して動きが止まってしまったが、すぐ我に返って前を向き直った時、プレートの端に手を当ててしまった。
反射的に反対の手で当てた部分を抑えて、なんとか声を出さずにすんで、周りに見られずにそのまま作業を再開した。
後ろの2人も作業に戻って急ピッチでクレープを作っていった。
それからお客さんの列が短くなったのは、1時間くらいたってからだった。
午後グループの中の3グループで、1時間で交代というシフトをまわすことになっていて、ちょうど私たちのグループの交代の時間になると、お客さんも徐々に減っていった。
「いやー、わかってはいたけど美優に力は偉大だわ。」

