櫻の王子と雪の騎士 Ⅰ









〈フレイム〉ラディアータ







そう唱えた瞬間、一瞬で目の前が赤く染まった。



ドームが真っ赤な炎に包まれ、中から溢れ出る魔力を相殺したのだ。



揺れ動く炎は、まるで巨大な赤い花のように美しかった。



しかし中の冷気をおびた魔力も負けてはいない。



炎すらも凍らせてしまうほどの力を放ち、自らの行く手を阻むものを排除しようと躍起になる。



本当に強大な魔力だ。



そして、それを向かい打つシェイラの魔力も。



「お前......」



目の前の、片手を掲げた男の本当の姿を目にしたジンノは息を呑んだ。



魔法を使えないなんてとんでもない。



炎と向かい合うその男は確かに、神の血を受け継ぐ、伝説の子だった。



ジンノは背を向け、歩き始める。



悔しさに顔を歪ませながら。



二人の間には運命と言う名のけして超えることの出来ない大き過ぎる壁があるように、ノアの真っ青な瞳に映る。



ジンノは何を告げるでもなく、扉の先の吹雪の中に消えていったのだった。



残されたシェイラはノアに尋ねる。



「ついて行かないのか?」



「私は......ルミとセレシェイラ様を残して行くわけには行きません、ジンノ様も、それを望んでいると思います」



「そうか......」



ノアの言葉を聞くとシェイラは優しく、柔らかく微笑み、そしてそっと瞼を閉じた。



そのまま、自身の膨大な魔力を確実にコントロールし、ルミの魔力とバランスを取る。



そうしながら、シェイラは不意に閉じた瞼を開き、ノアを見つめて言う。



「ノア、答えてくれ」



「?」



「ルミは...あの子は───────」



続けられたやけに真剣なその言葉と、それに答えたノアの声は、教会に咲いた焔の華に消えていった。



焔に照らされた、シェイラの横顔はとても幸せそうで、その目から溢れた涙がすっと頬を伝っていったのだった。