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 突然現れ、自分に対して跪く二人。



 胸に掲げられたフェルダンの紋章に手を当てるその所作は、衛兵をはじめ王宮に仕える者たちが王族に忠誠を誓うために行う動作だ。



(こんな事されたの、いつ以来だっけ......)



 ぼんやりとそんなことを考え、シェイラは視線を闘技場内に戻した。



 中では二人の人物が大喧嘩を繰り広げている。



「あの時からなーんにも変わってないのね!いちいちやり過ぎなのよ、兄さんは!!」



「お前だって人の事言えないだろ、俺をだましてばっかりだ!一体何が楽しいんだか!」



 一人はジンノ、もう一人は一層美しく変貌を遂げたルミ。


 
 互いにに高度な魔法をぶつけ合う。



 闘技場内は瞬く間に雪景色へと変わっていった。



 どうしてこんな事になったのかというと...






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『ルミア!』



『兄さん!』



 互いに名を呼びあう二人。



 10年ぶりに感動の再会を果たした兄弟は、駆け寄り熱い抱擁を交わす予定だった。



 それなのに



 ガンッ!



『っ痛!!』



 ルミはそのままジンノへと突っ込み、馬乗りとなってジンノの眉間に自分が持っている氷の刀の切っ先を突きつけたのだ。



『......どういう理由があったか知らないけど、これはやり過ぎなんじゃない??』



 額に怒りマークが浮かび上がるくらい、その言葉そのものにも怒気がたっぷりと含まれている。



 ジンノは、怒りをにじませるルミを前に、一旦は呆気にとられるが、黙っているような人ではない。



『はっ、誰かさんじゃあるまいし、何年も死んだふりしてた奴には言われたくねえなあ!!』



 そう言ってルミを振り落し、この兄弟の大喧嘩が始まったというわけだ。



 ジンノに関しては嬉々としてこの喧嘩を楽しんでいるように見える。



 遠目にこの喧嘩を見たアルマとエルヴィスは、初めて魔王と対等に戦う何やら見覚えのある人物を目にして驚愕の表情を浮かべていた。




(おい、アルっ!あの人誰だよっ!?ジンノ様と渡り合うなんて何者なんだ!?)



(た、たぶん...ルミさんだと思う)



(ああ!国王陛下を二度も守ったっていうオーリング様の恋人?でもあんな美人な女性だったっけ??もしそうだったら俺の美女センサーが働かないはずないんだけど)



(またバカなことを...でも確かに女性っていうよりは少女っていう方がしっくりくる感じだったと思うんだが...ってか、ルミさんってオーリング様の恋人なの??)



(へ? 違うの?? 俺はてっきりそうだとばかり)



(ちがうだろ)



(でも、あの子をこの国に連れてきたのもオーリング様だし、つい最近も病室に通い詰めてたし?)



(......)



(あっ信じてないな、アル)



(...エルの感ほど信じられないものはない)



(ええ―...ひっでえ)







 そんな会話を繰り広げる二人を他所に、シェイラはエンマと共に、まだ喧嘩を続ける兄弟を見つめていた。