恋愛事案は内密に

「近くで顔を寄せるなんて、あのとき以来ですね」

「所長、顔が近いですって」

「今、所長って言ったでしょ」

メガネからのぞむ、いたずらな目が私をとらえて離さなかった。

「あ……すみません」

「こんな感じ、だったんですね」

所長を見降ろした。

所長のメガネ越しにみせる瞳の強さに体が硬直してしまう。

所長に対する気持ちを見透かされているようで怖かった。

「もっと言ってくださいよ」

「五十嵐……さん」

「よくできました」

ニコリと笑うと、ようやく腕を離した。

やさしい言葉を欲しがるなんて、まるで子供だ。

「さて帰りましょうか」

先ほどまでのことは何もなかったかのように所長は立ち上がり、レジに向かう。

所長はおごりますよ、と言ってくれたけれど、さすがにおごられっぱなしは困るので割り勘にしてもらった。