恋愛事案は内密に

梅雨に入っているのかよくわからないまま、起きてカーテンを開けると雨粒がガラスを叩いていた。

蒸し暑いだろうから、メイクも髪の毛も適当にして、洋服もTシャツにパンツを履き、替えの洋服をカバンにつめて出かけた。

私の住むマンションから北に歩いて10分ぐらいに駅があり、その駅を通過したところに派遣先のビルがある。

目抜き通りの歩行者用道路はサラリーマンやOLなど、通勤者がぞろぞろとそれぞれの会社に向かっている。

私もその群れの中に混じり、会社まで歩いていく。

信号待ちをしていたとき、大通りの向こう側の歩道に見なれたスーツを着た人を発見する。

短髪の黒髪にすらりとした背丈。

ひと目みただけであの人だとわかった。

「大和っ!」

大和の横顔が向こう側にある。

今ならやり直せるだろうか。

走って、声をかけて、やっぱり大和が必要なんだ、っていいたい。

今日はパンツにして正解だ。頑張って走れば大和に追いつける。

青信号になり、向こう側の歩道へ行こうとしていたとき、

「むつみさん」

後ろから声をかけられた。

私は立ち止まると、早足の靴音が目の前でピタリと止まった。