恋愛事案は内密に

そういうと、所長はカバンの中にしまった。

「それじゃあ、お疲れ様でした」

私は所長にお辞儀し、玄関へ向かおうとしたときだった。

「ちょっと待ってください」

所長に呼び止められ、足をとめる。

小走りに所長が近づいた。

「これを処分するかわりに、ひとつ、お願いを聞いてくれませんか」

「何でしょう」

所長は少し顔を赤らめている。

「……むつみさん、って呼んでもいいですか?」

「えっ」

「……唐突すぎましたね。何言ってるんだろ、僕」

「いいですよ」

「えっ、い、いいんですか」

所長は目を丸くしている。

「いいですよ。以前いた会社でも上司からむつみって言われてますし、副所長の北野さんもむつみちゃんって呼ばれてますから」

「そ、そうでしたね。じゃ、じゃあ、遠慮なく呼ばせてもらいますね」

「所長、私はこれで失礼します」

「お疲れ様でした」

後ろを振り返ると、所長もこちらを振り返りながら軽やかに歩いている。

その顔は朝以上に胸をざわつかせる笑顔だった。