恋愛事案は内密に

「え、仕事のことですか」

「いろんなこと、ですよ」

一瞬、別の男の顔をのぞかせていて、胸が騒いだ。

いろんなこと、ってどんなことと話しかけようとしたら、隣のもう1基のエレベーターの扉が開く。

「あら、所長と森園さんじゃない」

黒いカバンを肩にかけ、スマホを片手に持った副所長の北野さんだった。

「これから帰りだったのね。今日はお疲れ様」

「お疲れ様です」

軽く頭を下げた。

「北野さん、いいこと考えてるんですけど」

「なんとなく察してるけど」

所長はニコニコと無邪気に北野さんとわたしに笑いかける。

「歓迎会しましょうか。北野さんも昇進したことだし」

「所長だって一緒でしょ。その前に森園さんの歓迎会でしょ」

「そうです」

「日程あとで調整しておくわ」

「さすが北野さんだなあ」

所長は納得するように頭をゆっくり傾けていた。

「さて、見積もりとか提案書とか書かなくちゃ。所長、行きますか」

「そ、そうですね。それじゃ、森園さん、また明日」

北野さんと所長は支店へ向かう。

少し所長の物足りない顔が気にかかった。