恋愛事案は内密に

もしかしたら、間に合うかもしれない。

本社の会議が午前中に入り、午後は営業先が会社の近辺でよかった。

どんな人なんだろう。会ってみたい。

会社に近づくにつれ、自分の足が駆け足になっている。

息を整え、通用口の自動ドアを開けると、黒いスカートにジャケット姿の女性がこちらへ歩いていた。

あの人だ。

今日、顔合わせにきた、森園むつみさんだ。

「どこかでお会いしましたよね」

とっさに出た言葉がこれだった。

不審に思っているだろう。

顔をこわばらせ、少しだけ作り笑いを浮かべている。

そういえば、カバンの中に銀色のネックレスを入れたはずだった。

カバンのサイドポケットを開け、中から取り出そうとするが、底のほうにあるので出しづらかった。

郡司の声がして、こちらへ近づく。

郡司はぺこっと他人行儀におじぎしたので、仕事中ということを一瞬忘れそうになった。

「あ、すみません。お騒がせして」

恥ずかしくなり、あまり話が出来ぬまま、エレベーターへ乗り込んだ。

やっぱりあのとき、バーのトイレで倒れていた女性だった。

北野さんとは5歳差か。

でもあのしっかりと芯がありそうな雰囲気は今までに会った女性の中で一番のタイプかもしれない。

こうやって出会えたのは運命なのか。

この銀色のネックレスのおかげなのかもしれない。

気持ちが落ち着かないまま、会社へ戻った。