恋愛事案は内密に

「北野さんに振られたから、私に乗り換えたんでしょ」

所長はあっけにとられた顔をし、強くつかんでいた腕を離した。

「答え、聞きたいんですか?」

営業的な所長から、プライベートの所長の顔に一瞬だけ戻った気がした。

「わかりましたよ。今日のところは帰ります。僕の気持ちも知らないで」

私は部屋を飛び出した。

ホテルの玄関にいたタクシーに飛び乗る。

好きになった自分がバカみたいだ。

どうして所長なんかを好きになってしまったんだろう。

あのままホテルで一夜を明かして抱き合いながら今日あったことも全部なかったことにしてしまうはずだったんだろうか。

観覧車のイルミネーションが近づいていくうちに涙が一粒、二粒とこぼれおちる。とめようと思えば思うほど、涙はとまらなくて、自宅について泣きじゃくりながらお金を払ったので運転手は困惑した顔をしながらおつりを渡してくれた。

部屋について今までのことを振り返る。

すべては所長の思いのままだった。

私はただのあやつり人形にすぎなかった。

所長だけではない。

大和にも同じような仕打ちをされていた。

シャワーを浴びようとスーツを脱ぐ。

足元に湿ったワンピースが足元をつたい、床に落ちた。

本当だったら今頃、このスーツを脱がされていたのだろうか。

こんな素敵なスーツをもらったのに、このスーツにはいい出来事も苦しい出来事も両方しみこんでしまった。

もう着る機会はないだろうな。

熱めのシャワーを浴びてもやっぱり落ち着かなかった。

気がつけばスマホで正社員求人サイトのウェブサイトにいっていろんな会社の情報をあさっていた。