恋愛事案は内密に

「ダメです。知られた以上は会社にいてもらいますから」

所長は私のところに駆け寄り、後ろから抱きすくめた。

「僕を怒らせないでくださいよ。むつみさん」

所長の声とともに荒い息づかいが耳に伝わってくる。

「もう我慢の限界です」

「所長命令なんですか」

「そう捉えるならご自由に」

所長の腕が解かれ、向かい合わせに体勢をかえられ、抱きしめられる。

見上げた所長の顔が怖かった。

「一応一泊でこちらの部屋はとってあります。せっかくだから泊まりますか」

「所長……せっかくだから、って! こんな状態で過ごしたくなってわかるくせに」

「業務時間外は五十嵐でいい、って何度言ったらわかるんですか」

眼鏡の向こうの瞳は獲物を狙うように鋭く見えた。

「離してください!」

こんな所長だったんだろうか。

最初から甘い顔をしていて近づいたんだろうか。

目の前の所長が信じられない。

体中の力を振り絞って所長と離れようとした。