「で、どうだった? おまえんとこの資料、いいのあった?」

「……失敗した」

数秒の沈黙が流れる。

大和の言葉を待つ。

強めの溜め息をはく音がした。

「なんだよ。期待して損した」

「期待だなんて。私はそんなことできないって」

「できない? そうか。まあ、自分でやったんだからな、しかたないな、むつみ。俺はただ資料があったらみてみたいな、って言っただけだから」

「しかたないって。だって大和が……」

「まさか、本気にしてたりしてないよな。俺の言葉。ただ冗談で言っただけなのに」

「冗談って、そんな」

「もういい。それより、ありがとな、むつみ」

「え、何が」

「オレにいい考えがある。また連絡する」

「大和」

私の声を無視して電話は切れた。

これでもういいんだってことを思い知らされた。

ちゃんと別れたのに心のどこかにまだ私を好きでいてくれる大和を信じてしまった私がバカだった。

私のことをおもいやってくれていた所長に対してひどいこと、会社に対しても損益になりかねないことをしようとした。

自分で自分の首を絞めてどうするんだろう。

もうこの会社では仕事をやっていけない。

大和のため? 自分のため? それとも所長に助けてもらいたくてこんなことをしてしまったんだろうか。

答えは出ているはずなのに、先に進みたくない自分がいた。